暗号資産への投資の可能性・税務とリスク 税理士が顧客に的確に説明するための実務知識
2025/07/22
2025年7月14日にビットコイン(BTC)は、史上初めて12万ドルを突破しました。ドナルド・トランプ大統領の注力分野として、暗号資産に注目されている方もいらっしゃると思いますが、直近でもデジタル資産関連の『Genius Act』法案の可決を促したと明らかにしており、政策の恩恵や規制緩和、FRBによる利下げ観測などを背景に、暗号資産への期待感が再び高まっているようです。投資家のみならず一般の事業主や給与所得者の間にも暗号資産への関心が広がりつつある一方で、「税金はどうなるのか」「リスクは大きくないのか」といった不安も根強く、税理士としてはそうした顧客の疑問に丁寧かつ的確に応えていく必要があるでしょう。そこで仮想通貨投資の現状と可能性、税務の基本、そして注意すべきリスクについて今回は簡単に解説していきます。

かつては一部の技術愛好家や投機家によるものと見なされていた暗号資産。私事となりますが2017年ごろ、まだビットコインが3000円程度で買えた時代に前職で暗号資産について講師をさせて頂いていましたが、当時はまだ流動性も低く成長性が期待される一方でリスクの高い商品という認識でした。それが今や世界の主要な資産クラスのひとつとして台頭しています。暗号資産のなかでも特にビットコインは、発行上限が定められている「デジタル・ゴールド」としての側面が強調され、金と同様の資産保全機能を持つとする見方が広がっています。2024年には米国で現物型ビットコインETFが上場し、これが機関投資家の本格的な参入を促す大きな契機となりました。その後も欧州やアジア市場で関連ETFの承認が相次いでおり、暗号資産は今後も投資環境の整備が進むことが見込まれています。暗号資産への投資は、短期間で大きな利益を生む可能性を秘めた新たな資産クラスです。しかしその反面、税務・規制・セキュリティなど、従来の金融商品とは異なる複雑な側面を持っています。
仮想通貨の投資対象としての魅力は、大きく3つあります。第一に、その高い成長性です。ビットコインやイーサリアムは過去10年間で他の金融資産を大きく上回るパフォーマンスを記録しており、リスクを許容できる投資家にとっては大きな収益機会となっています。
第二に、誰でも少額から始められる点です。証券口座や銀行口座の開設を必要とせず、スマートフォン1つで数百円程度から取引を開始できる手軽さは、若年層や初心者層の参入を後押ししています。PayPayやメルカリなどではポイントを暗号資産に変えるサービスもあります。
第三に、資産分散の観点です。仮想通貨は株式や債券と異なる値動きをするため、ポートフォリオのリスクを抑えるための一手として機能すると一般的に言われます。
ただしリスクもあります。まず挙げられるのが、価格変動リスクです。ビットコインをはじめとする仮想通貨は、1日で10%以上の値動きを見せることも珍しくなく、価格変動の激しさは株式や為替を上回ることがあります。したがって、投資は「余剰資金」で行い、短期の価格変動に一喜一憂しない心構えが求められます。
レバレッジ取引の危険性にも注意が必要です。仮想通貨の一部取引所では最大100倍のレバレッジをかけられる場合がありますが、急激な価格変動によって損失が一気に拡大し、元本を上回る損失が発生する可能性もあります。
また詐欺やハッキングのリスクも無視できません。取引所の破綻や、不正送金による資産消失、秘密鍵の紛失といったリスクに備えるには、セキュリティ対策が不可欠です。ハードウェアウォレットの使用や、2段階認証の導入、そして信頼性の高い取引所の利用がリスク軽減に寄与します。
加えて規制・税制の変更リスクです。仮想通貨は各国政府の判断で突如として規制対象となる可能性があります。日本でも法改正が進められており、今後の制度変更によって投資環境が大きく変わることは十分にあり得ます。そして現状で暗号資産は税金の計算方法が難しいというのも大きなリスクです。
まず、個人が暗号資産を売却して得た利益は、「雑所得」に区分されます。これは「給与所得」や「事業所得」とは別の扱いです。
所得税法上、給与や事業所得と合算される「総合課税」の対象であり、累進税率により最大で45%、住民税を加えれば最大55%が課されることになります。給与が多い人ほど税率も高くなるのです。
暗号資産を売って円に換えなければ課税されないかというとそうではありません。たとえばビットコインを他の暗号資産(イーサリアムなど)に交換した、暗号資産で商品やサービスを購入した、マイニングやステーキングで報酬を得たなどのケースも雑所得にあたります。「日本円に戻していないから大丈夫」と思っている人も多いのですが、通貨やモノに変えた時点で売却と見なされて課税対象になります。
この利益は、取得時の価格と売却・使用時の価格の差額で計算されます。
ここで注意すべきは、仮想通貨の損益は他の所得と損益通算できず、翌年への繰越控除も認められていないという点です。これにより、たとえば前年に仮想通貨で100万円の損失を出したとしても、今年の給与所得からその損失を引くことはできません。
また基本的には、給与所得が1か所だけの会社員が、暗号資産の所得が年間20万円以下であれば、確定申告は不要ですが「20万円以下なら申告しなくていい」という認識だけでは不十分で、自分の収入状況や申告の有無に応じて、申告義務の有無が変わるという点をしっかり理解しておく必要があります。
たとえば、医療費が多くて医療費控除を受ける場合やふるさと納税などで寄附金控除を受ける場合、住宅ローン控除の初年度で確定申告をする場合、副業やアルバイトなど給与が2か所以上から出ている場合など仮想通貨による所得が20万円以下であっても、申告書に記載する必要があります。
まとめると以下の条件のどれかに当てはまる人は、暗号資産に関連して確定申告が必要となる可能性が高いといえます。
○給与所得が1か所でも、年間20万円超の暗号資産所得がある
○2か所以上から給与をもらっていて、仮想通貨の利益がある
○医療費控除や住宅ローン控除など、他の理由で確定申告をする予定がある
○副業や事業の収入と合わせて申告する必要がある人
確定申告の際に気をつけるべきこととしては、仮想通貨の取引履歴を保存しておくこと(年間取引報告書やCSVデータ)、損益を計算するために、取得価格を正しく記録しておくこと、利用している複数の取引所での通算損益も忘れずにすることなどが挙げられます。
仮想通貨の税務処理にあたって、まず必要なのは正確な記録の保存です。利益の計算には「移動平均法」または「総平均法」を用います。仮想通貨の購入単価がバラバラな場合、平均を取って取得原価を算出し、そこから売却額を引いた差額が所得となります。取引日時、数量、価格、手数料など、すべての取引に関する情報を整理しておくことが、申告の正確性と税務調査への備えになります。複数の取引所やウォレットを利用している場合には特に注意が必要です。
また、NFT(非代替性トークン)やDeFi(分散型金融)などの新たな領域では、税務処理の指針がまだ整備されていない部分もあります。たとえば、NFTの売買で得た利益も原則として雑所得に分類されますが、事業的規模での売買であれば事業所得とみなされる可能性もあります。この点においては、税理士が保守的な立場から助言を行い、あいまいな取引についても記録を残しておくよう指導することが重要です。
さらに、海外の取引所での取引については、国内での課税対象になります。過去には海外口座に関する申告漏れが問題となったケースもあり、将来的にはCRS(共通報告基準)やCARF(暗号資産報告枠組み)により税務当局が情報を入手する体制が整備される見通しです。
法人が仮想通貨を保有する場合は、会計上の「棚卸資産」や「投資その他の資産」として計上され、期末における時価評価によって含み益が発生すれば課税対象となります。期末時点で含み損があっても、原則として損金算入できない点にも注意が必要です。このように暗号資産の税金は複雑なので税理士に相談するケースも今後も増えるのではないでしょうか。
最後に税制面でも注目すべき動きがあります2025年7月現在、個人の仮想通貨所得は総合課税とされていますが、申告分離課税(20%程度の一律税率)への移行を求める議論が高まりつつあります。
6月25日の金融審議会総会「暗号資産を巡る制度のあり方に関する検討について」によると、国内の利用状況(2025年1月時点)は国内の暗号資産口座数が1,214万口座と5年間で約4倍に増加しており、暗号資産はもはや一部の投機対象ではなく、広範な個人層が利用する投資資産へと成長しているとのこと。国際的な動向では世界的にETF(上場投資信託)を通じた資金流入が顕著で投資対象としての認知が進み、特にインフレ耐性・長期的分散資産としての需要が急増し資産運用ポートフォリオの一部として定着しつつあり、国内でも債券・株式と比べれば保有率は低いが若年層・ネットユーザー層に支持が高く、長期保有を前提とする投資意識も見られるとのこと。一方で暗号資産に関する相談が月平均300件超を超えており特に詐欺的勧誘や送金トラブル、出金できない問題が多数出ているほか、ビットコイン、イーサリアムはS&P500などと比べ価格変動が極めて大きく、金価格や日経平均株価と比較しても投資リスクが高いが、リターンも大きいことが指摘されています。情報開示の不足・事業者の規律・価格操作リスクなど、課題は山積みではあるものの、金融庁は、2025年度以降も規制と育成のバランスある制度整備を進める方針とのことです。
近い将来日本でも暗号資産のETFや、暗号資産が金融商品として認められて分離課税になる可能性も考えられるため法改正の可能性を踏まえた継続的な情報収集が欠かせません。この記事が皆様の参考に少しでもなれば幸いです。
参考資料 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/soukai/siryou/20250625/1.pdf